イイタイダケ

言いたいだけです。

映画『スイス・アーミー・マン』を観たので多機能死体について語ってみる

ハリー・ポッター役の人が死体役なんだってー。

とうざっくりした前情報のみで選びました。

 

いや何でこれ選んだし。

何でこれ最後まで観たし。

でも観てよかったかも。

な、不思議な映画でした。

 

タイトルはスイスアーミーナイフ並に多機能な死体、という意味。

スイスの人怒っていいと思う。

 ネタバレありです。

 

 

遭難し、無人島で一人過ごすハンクは絶望していた。

自殺を図ろうとしたタイミングで、浜辺に打ち上げられた人を見つける。

だが、その男は既に死亡していた。

 

希望が絶たれ、再び自殺を試みるハンクの目の前で死体は一人でに動き出す。

溜まった腐敗ガスが死体を動かしていたのだ。

それをジェットスキーとして活用することを思いつき

ハンクは島からの脱出に成功したのであった。

 

このあたりは爽快に(?)観られたのですが

死体が話し出すあたりからちょっとこれヤバイなって思いましたね。

 

そう、喋るんです!

最初は空気が勝手に漏れただけかなっていう感じで。

メニーとかいうのでそれが死体の名前になっちゃいました。

でも会話が成立するんです。

 

ハンクも一度は怖がるのですが

会話に飢えた彼は、メニーにもっと話せって殴るんですよ。

相手が死体でもひどい!痛そう!でももう死んでる!

そして人間って、ずっと一人でいると頭がおかしくなるんだなーと思いました。

 

島から脱出したのはいいけれど、辺りは無人

雑誌などのゴミはあるので、人の気配はあるのだけれど

再びさまよう羽目になるハンクとメニー。

そう、なぜかメニーを連れて(引きずって)行くのです。

 

しかしメニーがとにかく便利。

身体に溜まった雨水は飲料水になるし(飲んでいいのかそれ?)

歯で髭を剃ったり、木を切ったり、頭突きで杭を打ったりできる。

基本ギャグにしか見えないんですが、頭突きは痛そうでひえってなりました。

 

色々な話をするハンクとメニー。

メニーは生きている時の記憶がないらしく、小さな子どものような

無邪気であるがゆえに無遠慮な質問をハンクにたくさんします。

ハンクも相手が死体だからか、他人には言いにくいことを告白します。

 

なんかいい話風ですが、会話の内容は主にシモの話です。

しかしPTSDに近い経験を持つハンクには

良いカウンセリングになっている様子。

不仲の父親との関係についても本音がこぼれます。

 

そんな中メニーは、ハンクのスマホに表示された女性・サラに

一目惚れします。

彼女に会いたいと、なぜかハンクへサラに変装することを依頼します。

そしてやけくそで女装をするハンクは意外とかわいい(ような気がしてきた)。

 

サラになったハンクと、メニーがバスの中で出会ったら。

そんな想像を二人できゃっきゃと楽しみます。

バスはハンクが異様にレベルが高い工作能力で、メニーを使って作成したもの。

彼はバス以外にもテントやエキストラまで様々なものを作るのです。

 

しかしサラのことが好きなのは、本当はハンクのはずなのです。

彼はサラに話しかける勇気はないものの、バスで隠し撮りした写真を

スマホの待ち受けにしていたのでした。

 

そしてサラとメニーのやり取りは

ハンクが本当はやりたかったことを、メニーに投影しているような印象です。

そもそもメニーがなぜサラの名前を知っているのか。

 

メニーが喋るというのはハンクの妄想なのでは?という

出来るだけ考えないようにしていた疑惑が浮上して来ます。

 

……とにかく客観的に見ると異常なのですが、二人はとても楽しそうです。

空想の世界はファンタジックで幸せがあふれています。

そして男と死体の美しい友情を見ることができます。

見てうれしいかはわかりませんが。

 

余りにも楽しそうなので、もうずっと二人で暮らしちゃえば

と思っていたら、唐突に車登場。

そして熊登場。

そしたら民家が現れて、それはサラの家の裏庭だったというご都合展開。

 

そう、急展開すぎます。

しかもサラは既婚者で、子どもまでいます。

ハンクはそれを知っていたのですがメニーに伝えられずにいたのです。

 

 

しかし二人の友情は社会に戻ってきたことで終わりです。

マスコミ、警察、ハンクの父親までもがやって来て

ハンクとメニーは引き離されます。

メニーは身元不明の死体だからね。

 

しかしハンクはメニーを警察に渡さない!

と盗み出してしまうのでした。

完全に狂人として扱われるハンク。

 

二人の秘密のバスも見つかって

魔法のような日々が、異常者の妄想として白日の下に晒されてしまいます。

あの特別な日々が、常識という暴力で失われてしまうのだと

悲しい気持ちになりました。

 

いつの間にかハンクとメニーに感情移入している自分に驚きます。

二人だけの世界だとあんなにも自然に思えたことが

社会から見るとどう考えてもオカシイ。

 

現実世界はメニーの存在を認めません。

死体は喋らないし、多機能でもありません。

そんな彼らの前で、メニーは海へ旅立って行ったのでした。

ガス溜まりすぎじゃない?

 

 

結局全てはハンクの幻覚なのでしょうか。

 

ハンクは生きることを諦めていました。

対照的にメニーは死体ですが、恋をし、人生(?)を楽しんでいました。

それはハンクが失っていたものです。

おそらくハンクが欲しかったものです。

 

そしてハンクはメニーといる時は自由に振る舞うことができました。

二人は想像の中ではサラと仲良くなることができました。

 

しかし現実は、ハンクとメニーを一緒のままにはしてくれません。

サラがハンクに振り向くこともありません。

社会を、常識を基準にすると美しいものが失われてしまいます。

 

二人だけの世界で生きていくことは悪いことでしょうか。

メニーが本当にいたっていいじゃない。

そんな気持ちになりました。

そんな気持ちになった自分が一番わけがわかりません。

 

そしてこの映画を作った監督、企画を通した人たち

死体役を引き受けたダニエル・ラドクリフをはじめ出演した俳優

みんなわけがわかりません。

わけがわからないことが存在してもいいんだなーと思える作品でした。

 

そして多機能死体というパワーワードがマイブーム。

 

 

シモとマイルドに表現しましたが

家族で観るとものすごく気まずいと思うので

一緒に見る人は選んだ方がいいと思います。

私は家族と観ました!